近田春夫と適菜収をつくった「どうしても気になってしまう」音楽とは?【近田春夫×適菜収】連載「言葉とハサミは使いよう」第11回
【近田春夫×適菜収】連載「言葉とハサミは使いよう」第11回

■早く忘れたいのに頭に残ってしまう曲
適菜:そういえば先日、ジミー・クリフが死にました。大学生のときに何曲か聴きましたが、レゲエというよりポップスで、夢中にはなれませんでした。
近田:ジミー・クリフねぇ。俺はあまりレゲエ好きじゃないんだけど、「You Can Get It If You Really Want」は普通にポップスとして口ずさんでいたなぁ。ハワイアンレゲエとかBGMに流すのは悪くないかな。
適菜:椎名町にずっとラガマフィンをBGMで流している蕎麦屋があるのですが、蕎麦とレゲエは合わないと思います。
近田:合わないでしょそりゃ! 想像しただけでも無理あるわ!
適菜:59番のJBの曲の分析も面白かったです。偶然ではなくて、すべて計算でああなったと。メイシオ・パーカーやJ.B’sの曲も、聴いている人間の体を強制的に動かす高度な計算があると思います。あらためてJBは偉大だなと。
近田:JB、ロジカルだよ。それとあの人、シンコペーションを使わないでトリッキーなリズムパターンを作るんだよね。JBは偉大だけど、そんなJBに曲を書いてヒットさせるんだからダン・ハートマンもマジすごいよ。
適菜:そういう意味では、ジョージ・クリントンも偉大です。よく、ジョージは天才的なオルガナイザーではあるが、ミュージシャンとしてはいまいちみたいなことを言う人がいますが、映像を見ると、偉大なミュージシャンであることがわかります。
近田:俺ねぇ、ジョージ ・クリントンってなんかピンとこないのよ。あの宇宙船がどうのこうのっていうのが苦手なのかも。
適菜:私はあれで宇宙に興味を持つようになりました。パーラメントの「Mothership Connection」は、名盤中の名盤かと。それとあの人たちは気まぐれですから、宇宙に飽きたら、海がテーマになったりする。
近田:そういうテーマみたいなのがダメなのかも。JBってそういうのないじゃん。あっち系の人たちはなんかちょっとアピアランスが趣味じゃないっていう。ロジャー(ザップ)の音作りは気になっていたときはあったけど。とにかくファンクはJBとスライなのよね、俺は。
適菜:57番のバリー・ホワイトも気になる。あの謎の大物感。クインシー・ジョーンズの「The Secret Garden」でも、若手が3人くらい歌った後に満を持して登場みたいな。バリー・ホワイトは日本人にとっては謎だと思います。アメリカ人が北島三郎の大物感を理解できないのと同じかもしれませんが。
近田:バリー・ホワイトがフルオーケストラで「Love’s Theme」の棒振ってる動画YouTubeにあるけど、ちゃんとクラシックの人みたいに指揮していて、あの感じって他の黒人のヒット曲出した人にないのよね。どういう生い立ちなんだろうっていつも思う。
適菜:5番のカーティス・メイフィールドの「Move On Up」ですが、私も近田さんの指摘と同じで曲の構成が変なような気がしました。
近田:カーティスってこの曲だと普通の4/4なのに変拍子っぽく聞こえさせたり「Superfly」だとホーンのリフがちょっと聞くと裏表がわかりにくかったりとか、少しだけ聞き手の生理を逆撫でしながら一方でやたら官能的にオーケストラの音を配置してるんだよね。そこが何かくすぐったい感じがするのかなぁ。適菜さん、そういう意味では頭に残る曲に一貫する共通性ってある?
適菜:頭に残る曲は、早く忘れたい曲が多いですね。思い出したくないと、逆に思い出してしまう。先日、スーパーマーケットに行ったら、井上陽水と奥田民生の「ありがとう」がかかっていた。その後、頭の中で「あーりがとー、あーりがとー、あーりがとー、あーりがとー」って、リピートで再生されて、嫌な気分になりました。あの人たちも、そういう目的で作ったのかもしれませんが。
近田:早く忘れたいのにずーっと残ってしまう曲の極致は、TUBEの「シーズン・イン・ザ・サン」だったなぁ。ひとシーズン中、歩いていて横断歩道のところで信号が赤になるたびに脳内にあれが鳴り響くのよ。今でもふとしたきっかけでそのモードに戻ってしまうことがあって。つらいっす!
適菜:人間は変なものを見ると、気になってしまう。こうして影響を受けたミュージシャンや曲を見てくると、一筋縄ではいかないというか、どこか変なミュージシャンが多いですね。
文:近田春夫×適菜収
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